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記事: My Life, with Home Recipes わたしの暮らしとホームレシピ

My Life, with Home Recipes わたしの暮らしとホームレシピ

My Life, with Home Recipes わたしの暮らしとホームレシピ

余白 井上 心平

私の家では、夜更かしにともなって遅く起きてくる私にかわり、早起きのパートナーが朝ご飯の準備をしてくれています。正確にいうと、目は覚めていても起き上がるまでに時間がかかる。ベッドのなかで包丁の音やお味噌汁の出汁の匂いを感じながらウトウトしつづけて、3回目のスヌーズが鳴り出すころに、ようやくベッドから起き上がるのです。

朝ごはんはもっぱら和食派。最近はよく、食卓に納豆が並びます。好物だからではなく、晩冬から仕込み始めたコンポストに納豆菌を撒くと良い堆肥になるからだという。そんな力説を聞きながら朝ご飯を食べ終え、そのコンポストが置かれたベランダに移動します。新しくベランダ菜園も始め、種種のハーブの苗や種が植えられたばかりのプランターの前で楽しそうに土いじりをするパートナーの様子を見届けつつ、夏にハーブが元気に生い茂る様子を想像して過ごします。

それから部屋にもどって、食後のコーヒーを淹れるのは、私の担当です。
お店に立つときやレシピ動画の撮影では、コーヒー豆にあわせて決められたタイムとお湯の量をなぞった抽出をおこないます。しかし、家ではコーヒー豆 20gに湯量は300gで2杯分、5回に分けてお湯を注ぐだけ。それが私のスタンダードなレシピです。

レシピどおりに淹れるスキルも大切ですが、コーヒーの粉の状態を観察し想像することもまた、豆にあわせて抽出を調整するために大事なスキルです。細かいレシピを決めないかわりに、蒸らしのときのガスの抜け方、一投ごとのお湯の抜け方をみながら成り行きでお湯を注いでゆくのです。
競技会などでプレゼンテーションをみる機会が増え、抽出の上手な人ほど粉の状態や湯抜けの挙動をよく観察し、それをコントロールするためにレシピを組んでいるのだと気づきました。それ以来、まずは形からと、抽出挙動と味覚の対応──こういう抽出だとこんな味になる、ここを調整するとこう味が変化するといったふうに──をインプットするために、家ではこの淹れ方を続けています。もちろん、仕事から離れた家ではかっちりしすぎず楽しみたい、というのが本音かもしれませんが。
蒸らしのときは、ポコポコと抜けるガスの多寡で、豆のエイジングの進み具合をイメージします。豆が大きく膨らみガスがたくさん含まれていると感じれば、40秒ほど、長めの蒸らし時間を取ってしっかりとお湯の通り道をつくってあげます。すくないときは 30秒ほどで切りあげて2投目へ。注ぎの間隔も、決まった秒数にとらわれず、その日に飲みたい味わいを想像し、液面を見ながら適当な浸透圧を狙って継ぎ足します。

「あまり決め切らない」ことは、私が、人生において密かに大事にしていることでもあります。相反するようですが、私はどちらかといえば心配性の完璧主義。だからこそ、予定どおりは想定どおりというか、驚きがすくない。いくらかの遊びをもたせたときに生じる偶然だけが想像を超えてくれる。その発見や出会いに心が大きく動くのです。
それはコーヒーも同じ。一度で想像以上の味わいに仕上がり満足することもあれば、もちろん上手くいかないこともあります。でも、次はどう淹れようかと話したり考えたりすることもまた、ひとつの楽しみです。バリスタとして仕事をしていると「正解のレシピ」や「おいしい淹れ方」を聞かれることもありますが、じつはそんな都合のよいものはありません。そこに至る(ゴールはないので「求める」でしょうか)道中を楽しむことが大切ですその道中を楽しめれば、美味しくても美味しくなくても得るものがある。一石二鳥というわけです。

お互い家を出るまでの時間、そうして淹れたコーヒーをお供に勉強(パートナーは薬膳について、私はスペイン語と英語をスマホのアプリで) や読書をしながら各々の時間を過ごすことが、いつしか日課となっています。
テレビはもたず、日中は音楽もあまりかけないので、朝の家は静かに時間が過ぎていきます。東西方向に対面で窓がついており、春秋の過ごしやすい時期は両窓を開けると心地良い風が一直線に抜けていきます。春の時期は、シジュウカラやキジバトなどのさえずりが風に乗って静かな家のなかに届くので、日課をすこし中断して、耳を澄ませます。

そして、傍らに置いた4th-marketの湯呑みを手に持ち、コーヒーをゆっくりと飲むのです。三重県の陶磁器産地の窯元でつくられ、平たく丸みを帯びた造形と半磁器の滑らかな質感が手に馴染み、また口が広いのでアロマもしっかりと感じとることができるので、朝のコーヒーはいつもこの湯呑みを使っています。
春めいてきたこのところは、窓から入る軽やかな陽気とあわせて、あまり重たい味わいになりすぎないように、湯抜けの速いORIGAMI Dripperでサッと淹れています。豆も中南米のウォッシュドかハニーの浅煎りから中煎り、穏やかで甘い酸味のコーヒーが優しくなじみます。最近ではペルーのミラ・フローレスが、ハーバルなアロマとチェリーのような穏やかな酸、カラメルのような後味で、ぴったりでした。

そのうちに、どちらかが家を出る時間になり、見送り見送られて仕事に向かいます。ともに同じコーヒーを飲みながら、それぞれの日課をおこない、ときおり季節の風や鳥のさえずりに意識を向けてみる。毎日繰り返されるものだけど、けっして同じではない。コーヒーの淹れ方と同じように、やすらぎや安定する時間を過ごしながら変化や移ろいも楽しみたい。そうした絶妙な静動のバランス、余白こそが、私が人生で大切にしていることかもしれません。

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コーヒーと過ごす、優しい日々の断片たち 入野 来未

私にとってコーヒーは、ホッとする時間の隣にあるもの、「お疲れ様。」と言ってくれるものです。みなさんにとってのビールみたいなものでしょうか? だから、私は夜にコーヒーを飲みます。

というのも、私の実家は、平日のルーティンが決まっていました。
18時に晩ご飯、19時にテレビ、20時に宿題、21時になってコーヒーとおやつ。
そんな日々を過ごしていたので、コーヒーは 1日のタスクを終えてから飲むものでした。幸いにも、カフェインを取っても快眠できるタイプの人間だったようで、寝不足に悩んだこともありません。目をつむったら5分以内に確実に寝ます。これはいまでも変わらないので、夜飲む習慣が抜けないみたいです。

はて、コーヒーを片手に何をするか。スマホを触るのは勿体無い。どうやらそんな気持ちにさせる力も、コーヒーにはあるようです。そんなわけで日記を書いたり、本を読みたくなったりするのです。私は、日記とまでいえない“なんでもノート”をもっています。いわゆる日記のような、書き留めておきたい言葉、感情、などを記すのはもちろん、外に吐き出したいことも書きます。知らず知らずのうちに頭のなかでぐるぐる考えてしまうことってありませんか?
「あのときの言葉、誰かを傷つけたんじゃないか?」「もっとこうすれば良かったんじゃないか?」「自分は人に対して誠実でいられているのか?」
考えたって答えが出ないことを考えてしまう時間、きっとみなさんにもあるはず。そんな、取るに足らない思考たちを、文字で書いて自分の脳みそから外に出します。脳みそから解き放つと少しすっきりとするもんだから、不思議ですよね。文字を書くって素晴らしい。
コーヒーは、陰陽でいうと陰の作用が働く飲み物、ゆるめる力をもっている飲み物です。1日の終わりに、思考を外に出して、コーヒーを飲んで身体も心もゆるめる。そんな時間を設けるために、夜のコーヒー時間をつくっているのかもしれません。

そんな私ですが、ここ最近は朝もコーヒーを淹れるようになりました。朝は、コーヒーと一緒にぼーっとします。ひたすらします。
2年前に引っ越したいまの家は南東向きで朝日がよく入るので、朝に目覚めてしまいます。良いことなのですが、いままで家を出る1時間前に起きていた私が、家を出る4~5時間前に起きてしまうのです。そうしたら、コーヒーを淹れたくなってしまいますよね。
朝日がよく入るおうちに住むことは、生きてゆくなかで大事にしていこうと思うようにもなりました。窓を開け、外の空気を吸いながら、ひたすらぼーっとする。何を考えているかは、文字にできるほど覚えていません。
なんだか、言葉にできないどこかが整っている。体内時計か?それに伴い精神も整ってるのか?よくわかりませんが、ぼーっとする時間をつくることも大事にしようと思えます。

そして、朝のコーヒー抽出は自分のテクニカルチェックも兼ねています。
成長は、右肩上がりに一直線ではなく、少しずつ少しずつ階段状に上がっていくものだと、人生の先輩から教わりました。継続してコーヒーを淹れていると、ケトルのなかの湯量がわかり、注ぎ口から出る瞬間がわかる、傾きによるフローレイトがわかる。すると、ある日、「あれ、美味しくなった」という日がやってきます。また数日すると、「あ、美味しくなった」というように、たまに来るのです、注ぎが上手くなっているなと感じられる嬉しい日が。そんな日のために、コーヒーを淹れているのかもしれません。
でも、そんな偉そうなことをいいながら、本当は、朝はガラス製品に太陽光が反射したときのキラキラを見るために淹れています。だから晴れた日にコーヒーを淹れます。



じつはここまで書いてきたことは、朝にコーヒーを淹れる理由の2%くらい。残りの98%は、このキラキラなのです。
朝日に照らされるガラス製品は綺麗なのです。綺麗なものは、心をときめかせます。ときめくって、大切です。少し、心の温度が上がるんです。そうすると、1日を過ごす心の温度が少し上がった状態になります。そんな1日は、いつもより少し口角があがります。
社会に出ると、ご機嫌に生きるって難しいんだけど、とても大事なこと、必要なことだと思います。私にとって朝にコーヒーを淹れるという作業は、自分をご機嫌にさせるための作業なのです。
コーヒーを淹れると、きっとあなたも、にこっと微笑んでしまう瞬間が増えるかもしれません。コーヒーを淹れたり飲んだりすることは、少しかもしれないけど、瞬間を、1日を、幸せにする、していると思います。きっと、幸せになるためにコーヒーを淹れるんだと思います。

そんなこんなで、もうコラムの終わりになってしまいました。みなさん、おうちでコーヒーを淹れる時間、つくりたくなったでしょうか?コーヒーが隣にいてくれる毎日が、皆さんを温かく包み込みますように。

オリジナルマガジン”Pneuma”ISSUE47より抜粋

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